ストレスへの正しい理解。
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本日も高校生からの質問に答えます。今日の質問は「大きすぎるプレッシャーへの対処法は?」です。この質問を頂いたのは経緯がございまして、先日の授業で現場の先生から生徒の皆さんにこちらを紹介して頂きました。
こちらはプレッシャーやストレスによる覚醒状態がパーフォーマンスにどのように影響するかを示した法則です。「ヤーキーズ・ドットソンの法則」と言われ生理心理学の文脈などでよく語られます。適度なプレッシャーやストレスは私たちのパフォーマンスを高めてくれる。つまり、プレッシャーやストレスは決して悪ではなく、私たちの味方になるケースが多分にあると言うことです。
グラフをご覧の通り
・シンプルタスクは大きくプレッシャーがかかるとパフォーマンスが上がる。
・難しいタスクの場合は適度なプレッシャー時にパフォーマンスが上がる。
ということが読み取れます。
こちらの法則は1908年に発表されました。100年以上前の理論ですが経験的に納得するかたも少なくないのではないでしょうか。火事場のくそ力などと言いますが、ひとつ事例を紹介します。車体の下敷きになった父親を救うために、2人の姉妹が1トンを超える車体を持ち上げたと言う事例があります。持ち上げるという動作自体は「シンプルタスク」です。極端な例ですがこれに極度のストレスが加わることで思はぬ力を発揮した例だといえます。
ただタスクが難しい場合はそうはいかないかもしれません。例えば、いきなり大勢の人の前で話す、スポーツの試合を決するような場面でのパフォーマンス、人生を左右するかもしれない試験でのパフォーマンスなどです。もちろん個人差や捉え方によって様々ですが、プレッシャーがかかりすぎることによって普段の力を発揮しづらくなるという経験をしたことがある人も少なくないかと思います。僕も同じくです。ただし適度なプレッシャーは高いパフォーマンスを産み出してくれます。締め切りがあると頑張れるみたいなことは誰でもあると思います。よって適度なプレッシャーやストレスを活用して、自分のパフォーマンスを発揮しよう!という内容でお伝えさせて頂きました。
これに対して「大きすぎるプレッシャーにはどのように対処すれば良いのか?」という質問を頂いたというわけです。
結論から言うと、大きなプレッシャーへの効果的なアプローチは2つ。
1.難しいタスクであれば、簡単にできるようになるまでトレーニングを繰返す。
2.有効な「マインドセット」を持つ。←これ注目です。
順番に解説します。
まず「1.難しいタスクであれば、簡単にできるようになるまでトレーニングを繰返す。」ですが、こちらは多くの人が理解しやすいかと思います。プレッシャーを感じている時は「失敗できない、失敗したくない」という精神状態になるかと思います。一番の近道は、失敗しないようになるまでトレーニングをする。つまり最高の準備をすること。そうすれば高いプレッシャーがかかっていても高パフォーマンス発揮できる可能性は高まります。当たり前のことができるようになるまでと練習すること、覚えられるまで勉強することが重要です。要はつべこべ言わずに「慣れろ」ってことですね。笑
そして2つ目は有効な「マインドセット」を持つです。こちらは1つ目と異なり即効性があります。そして多くの人が勘違いしている要素とも言えます。シンプルだけど多くの人が有効活用していません。
マインドセットとは?
まずマインドセットとは、あなたはプレッシャーに対して持っている印象のこと。つまりストレスに対するあなたの固定観念とも言えます。人によってプレッシャーやストレスは悪だと認識している人と、そうでない人がいます。この認識の違いによってストレスがかかる場面でのパフォーマンスに影響することが明らかになっています。
まずマインドセットについての研究を紹介します。「考え方が変わればスリムになれます。」あなたがこんな風に言われたらをいかがでしょう?僕は疑います。笑この研究を見るまではそのように考えていました。これはマインドセットが健康に及ぼす影響を明らかにするために当時イエール大学在学のアリア・クラム氏が、アメリカの7つのホテルの従業員に対して行なった研究です。これらのホテルで働く従業員たちは一般のオフィスワーカーに比べておよそ3倍のカロリー消費していました(300kcal/h)。これはウエイトリフティング、水中エアロビクスに匹敵する運動量とも言われています。実験前に行われたインタビューで被験者たちは普段の運動状況についてのアンケートに答えました。すると1/3が「全く運動をしていない」、2/3が「定期的な運動をしていない」と答えました。被験者たちの体型はまさにその通りになっており、座りっぱなしのオフィスワーカーと変わらない体型をしていました。
ここからが面白いところなのですが、アリア・クラム氏は7つのうち4つのホテルの被験者たちに対して、日常の業務でどれくらいのカロリーを消費しているかを認識させるためのプレゼンテーションを行い、目のつくところにそれを認識させるためのポスターを掲示しました。残り3つのホテルの被験者には運動がいかに健康にとって重要かのみを説明しました。そして4ヶ月後に体の状態をチェックしました。
すると、日常業務でどれくらいのカロリーを消費しているかを認識した被験者たちの体重、体脂肪が減少し、血圧も低下していました。一方、対称群の被験者たちに変化は見られませんでした。健康状態が良化した被験者たちの生活は何も変化していません。唯一変化したのは、「自分は運動している」と認識したことです。これがマインドセットの効果です。
ストレスへの理解が変わるだけでパフォーマンスが向上する?
もう1つ研究を紹介します。こちらの研究では被験者に非常にプレッシャーのかかる模擬面接に参加してもらいます。この面接で被験者たちは面接官から厳しいフィードバックばかりを受けます。フィードバックだけでなく厳しい表情や、ため息などの態度でもストレスをかけられます。この時にどのようなストレス反応を示すかを計測するというものです。被験者は面接の前に2つのグループに分かれそれぞれ別の3分間のビデオを視聴します。1つ目のビデオは「ストレスはパフォーマンスを向上させ、健康を増進させ、成長に役立つ」という内容。もう一方は「ストレスは健康に悪く、幸福感を失わせ、パフォーマンスを低下させる」というものです。それぞれのビデオを視聴することでストレスへの認識をコントロールし、それが被験者のストレス反応にどのような影響を及ぼすかを生理的に計測します。
被験者の唾液を採取し、ストレスホルモンの値を計測するのですが、ここで2種類のストレスホルモンが登場します。それぞれ紹介します。
コルチゾール→糖代謝、脂質代謝を助け、脳と体のエネルギー消費を助ける。消化、生殖、成長などのストレス下ではあまり重要でない生物的機能を抑える。コルチゾールが過多な状態が続くと免疫機能の低下、うつ症状などを引き起こす可能性が上がる。
デヒドロエピアンドロステロン(DHEA)→脳の成長(神経可塑)を助け、コルチゾールの作用抑制、創傷の治癒促進、免疫機能を高めるなどの作用がある。DHEAの分泌が増えると不眠症、うつ病、心臓病などのストレス起因の病気のリスクが低下する傾向がある。
そしてこの2つのストレスホルモンの割合がストレスに対する反応を分けます。DHEAの割合が高いほど粘り強く、集中力が高く、問題解決能力に優れ、児童虐待などの極めて過酷な状態からの回復も早い傾向が報告されてることから、ストレス反応の「成長指数」と呼ばれています。
つまり研究では、ストレスに対する認識の変化(マインドセットの変化)でどのように反応が変化するのかを生理的レベルで検証されました。要は3分間のビデオを見ただけで生理的なレベルでストレスやプレッシャーに対する反応が変わるのか?ということです。御察しの通り答えは「Yes」です。もちろん被験者は面接を受けることでコルチゾール値が上昇しました。しかしストレスは有効に機能するというビデオを見た被験者ただけは、同時にDHEA値も上昇したのです。つまりたった3分間のビデオが被験者たちのストレス下での成長指数を向上させました。
このように、プレッシャーは役に立つ、自分のパフォーマンスを上げてくれるというマインドセットを持っている人は強いプレッシャーの中でパフォーマンスが上がります。要はストレスに対しての正しい理解を持っているだけでパフォーマンスは変わってしまう可能性があります。
リラックスするのは間違い?
間違いではありません。リラックスすること、特に睡眠はストレスのかかった脳や体を休息させるためには重要です。しかしプレッシャーがかかる最中にリラックスしようとするのは間違いといえます。プレッシャーを感じているからそれを回避するためにリラックスしようとするのは、プレッシャーに対する否定的なマインドセットからくる発想とも言えます。先ほどお伝えしたようにプレッシャーはパフォーマンスを高めてくれる、人生の重要な局面に立ち向かうための脳と体の状態を整えてくれる重要な役割を担ってくれています。つまりプレッシャーを回避しようとせず、「自分は今プレッシャーを感じている。ストレスホルモンがパフォーマンスを発揮しようと反応してくれている。」と考えることで生理的にもストレスがあなたのパフォーマンス向上や成長を促してくれると言えます。
それとこれは個人的な見解ですが、大きなプレッシャーがかかる場面でリラックスするのは、間違いというよりは極めて難しいと思ってます。自分が高校生の時に、部活動の最後の大会でリラックスしろと言われた経験があります。当時は素直にリラックスしようとしていましたが、自分のメンタルと戦っているような感覚になり、対戦相手との勝負に集中できたかというとあまり有効でなかった記憶があります。笑
だから緊張していることをしっかりと感じてそれを力に変えてやろうという認識で高パフォーマンスに繋げてください。
まとめます。
・プレッシャーが大ききれば大きいほどシンプルなタスクは高パフォーマンスが生まれる。難しいと思うことでも、簡単と思えるまで繰り返して慣れよう。
・プレッシャーは自分のパフォーマンスを高めてくれる味方であることを理解する。マインドセットは生理的レベルであなたを成長させてくれます。
本番に対しての準備が何より大切。できる限りの準備をして、本番ではプレッシャーを味方につけパフォーマンスを発揮しましょう。健闘を祈る!